「誠二―――っ!」 今日も先生の怒声が響く。 クスクスと笑い声も聞こえる。 「お前は何度言ったら解るんだ。」 先生は誠二の頭を丸めたノートで叩いた。 「痛っ!」 小さく誠二が言う。 「痛っ!っじゃないぞお前。小学生みたいなことするなよ。もう受験だぞ? そんな態度だと受からないぞ。」 先生は呆れた声で言った。 呆れるのも当然だろう。 誠二は授業中に作詞をしているのだから。 彼は僕のほうを振り向き、舌を出して笑う。 高校生とは思えない幼い笑顔だ。 チャイムが鳴り響き、授業が終わると誠二がノートを持って僕の机に走ってきた。 「悠、悠。できたよ。」 誠二がノートを開いて僕に見せてくれた。 そこには、『始まりの詩』と書かれている。 国語のノートには先生の板書ではなく、歌詞だけが書いてある。 誠二は僕より作詞の才能があったし、僕は誠二より作曲の方が得意だった。 でも誠二のほうが歌は上手かった。 今までは、作詞作曲は共同で制作していたが、今度の曲は自分の得意な方をやることにした。 歌詞に目を通すと、『幸せを逃してしまって』、と言う部分があった。 しかし、幸の字に一本横線が多く、君を待つ、の待の字が侍になっている。それだけでは無い。 「スゴい世界の歌詞だな。」 「僕、宇宙人!」 誠二が右手を突き上げた。 僕は笑った。誠二も笑った。 再び僕は歌詞に目をおとし、サビをペンで囲む。 同じ音程の部分にはアンダーラインを引く。 音楽が得意なわけではなかった。 昨晩やっていた歌番組を彼も見ていたのだろうか、僕の隣で口ずさんでいた。 今回の曲は二週間程で出来上がった。 それから放課後に練習をして、自分の物にすることが出来た。 この曲も取り入れて僕等は歌い続けた。 季節はもう冬になり、浜辺にはもう人はあまり見なくなった。 冷たい風が顔にあたる。 「今年の冬はここで練習はできないなぁ」 誠二が体を震わせて言った。 ビュウビュウと音を立てて、風は吹いてゆく。 誠二の髪が風に煽られ、顔にかかっていた。 「公園も寒いだろ。」 「寒いのは寒いけど、ここはもっと寒い。」 「海だからな。」 それから、僕等は冬の間と雨の日は、夕方六時まで誠二の父親の店で過ごした。 商店街の端で弾き語りをしたこともあった。 突然、演奏中に隣から、バチンっ!という大きな音がした。 隣を見ると誠二が頬から血を流していた。 ギターの弦が切れたようだ。 僕の弦も切れることはあった。 何度か切れた弦が当たり、一瞬にして皮膚が切れた。 弦を張り替えるときも、力の加減が少し強すぎただけで弦は切れる。 それを何度も繰り返し、傷だらけになっていたこともあった。 しかし、誠二は弦が切れたとき必ずといっていいほど怪我をする。 不器用……、そういう意味ではないらしい。 朝、誠二が切り傷をつくってきたときはギターの弦が切れたときだとすぐにわかった。 「ギターに虐待された。」 誠二は笑って言った。 「仕返しさ。」 僕は笑って言った。 高い声で誠二は笑う。 すでに校則違反の前髪が彼の目にかかる。 細く真っ直ぐな髪は色素が足りないのだろうか、茶髪だった。 「髪、染めてんの?」 そう、同級生に聞かれた彼は、 「染めてないよ、元から。」 そう答えていた。 体操服はぐちゃぐちゃに袋に詰め込むし、プリントは見ずに机の中に押しこむ。 髪だって整えずに登校して来る。 彼は髪を綺麗に染められる程、器用ではないだろう。 僕はそう考えると笑ってしまう。 身長は僕とほとんど変わらないが、高校三年には見えないし、幼い笑顔は中学生のときから全く変わっていない。 そんな彼は僕の最高の相棒だった。 [先頭ページを開く] [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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