物語

雫の音色♪ 4

「誠二―――っ!」
今日も先生の怒声が響く。
クスクスと笑い声も聞こえる。
「お前は何度言ったら解るんだ。」
先生は誠二の頭を丸めたノートで叩いた。
「痛っ!」
小さく誠二が言う。
「痛っ!っじゃないぞお前。小学生みたいなことするなよ。もう受験だぞ? そんな態度だと受からないぞ。」
先生は呆れた声で言った。
呆れるのも当然だろう。
誠二は授業中に作詞をしているのだから。
彼は僕のほうを振り向き、舌を出して笑う。
高校生とは思えない幼い笑顔だ。
チャイムが鳴り響き、授業が終わると誠二がノートを持って僕の机に走ってきた。
「悠、悠。できたよ。」
誠二がノートを開いて僕に見せてくれた。
そこには、『始まりの詩』と書かれている。
国語のノートには先生の板書ではなく、歌詞だけが書いてある。
誠二は僕より作詞の才能があったし、僕は誠二より作曲の方が得意だった。
でも誠二のほうが歌は上手かった。
今までは、作詞作曲は共同で制作していたが、今度の曲は自分の得意な方をやることにした。
歌詞に目を通すと、『幸せを逃してしまって』、と言う部分があった。
しかし、幸の字に一本横線が多く、君を待つ、の待の字が侍になっている。それだけでは無い。
「スゴい世界の歌詞だな。」
「僕、宇宙人!」
誠二が右手を突き上げた。
僕は笑った。誠二も笑った。
再び僕は歌詞に目をおとし、サビをペンで囲む。
同じ音程の部分にはアンダーラインを引く。
音楽が得意なわけではなかった。
昨晩やっていた歌番組を彼も見ていたのだろうか、僕の隣で口ずさんでいた。
今回の曲は二週間程で出来上がった。
それから放課後に練習をして、自分の物にすることが出来た。
この曲も取り入れて僕等は歌い続けた。
季節はもう冬になり、浜辺にはもう人はあまり見なくなった。
冷たい風が顔にあたる。
「今年の冬はここで練習はできないなぁ」
誠二が体を震わせて言った。
ビュウビュウと音を立てて、風は吹いてゆく。
誠二の髪が風に煽られ、顔にかかっていた。
「公園も寒いだろ。」
「寒いのは寒いけど、ここはもっと寒い。」
「海だからな。」
それから、僕等は冬の間と雨の日は、夕方六時まで誠二の父親の店で過ごした。
商店街の端で弾き語りをしたこともあった。
突然、演奏中に隣から、バチンっ!という大きな音がした。
隣を見ると誠二が頬から血を流していた。
ギターの弦が切れたようだ。
僕の弦も切れることはあった。
何度か切れた弦が当たり、一瞬にして皮膚が切れた。
弦を張り替えるときも、力の加減が少し強すぎただけで弦は切れる。
それを何度も繰り返し、傷だらけになっていたこともあった。
しかし、誠二は弦が切れたとき必ずといっていいほど怪我をする。
不器用……、そういう意味ではないらしい。
朝、誠二が切り傷をつくってきたときはギターの弦が切れたときだとすぐにわかった。
「ギターに虐待された。」
誠二は笑って言った。
「仕返しさ。」
僕は笑って言った。
高い声で誠二は笑う。
すでに校則違反の前髪が彼の目にかかる。
細く真っ直ぐな髪は色素が足りないのだろうか、茶髪だった。
「髪、染めてんの?」
そう、同級生に聞かれた彼は、
「染めてないよ、元から。」
そう答えていた。
体操服はぐちゃぐちゃに袋に詰め込むし、プリントは見ずに机の中に押しこむ。
髪だって整えずに登校して来る。
彼は髪を綺麗に染められる程、器用ではないだろう。
僕はそう考えると笑ってしまう。
身長は僕とほとんど変わらないが、高校三年には見えないし、幼い笑顔は中学生のときから全く変わっていない。
そんな彼は僕の最高の相棒だった。


[先頭ページを開く]
[指定ページを開く]


<<重要なお知らせ>>

@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
@peps!・Chip!!は、2024年5月末をもってサービスを終了させていただきます。
詳しくは
@peps!サービス終了のお知らせ
Chip!!サービス終了のお知らせ
をご確認ください。




w友達に教えるw
[ホムペ作成][新着記事]
[編集]

無料ホームページ作成は@peps!
無料ホムペ素材も超充実ァ