物語

雫の音色♪ 2

 あの日の夜、僕たちはいつものようにギターを背負い、商店街を歩いていた。
学校は終わり、もう日は沈んでいる。
商店街には若いカップルや飲み屋に向かうサラリーマン、ナンパ目当ての若い男女がいて、昼の商店街とは打って変わり賑わっている。
僕らもその中の一部となっている。
街のネオンの光りは煌々と輝き、人々の声が混ざり合う。
商店街は僕の家からそう遠くはない。
僕らが向かっている先は誠二の父親が経営している小さなバーだった。
そこで、僕らはギターの演奏をしている。
店員や常連の客にも知り合いが増え、僕らの演奏を大好きだと言ってくれる人も多い。
花魁と言うあだ名の女性店員は僕らを子供扱いするが、僕らの演奏には一目置いてくれている。
そして、少々だが遊ぶ金を得た。
僕らは中学時代からギターを始めたのだが、習う場所もなければ教えてくれる人もいない。
時間があれば僕らはCDや本を買い、練習をして、日に日に上達していた。
僕等はよく近くの浜辺、そして学校の近くの公園で明るいうちから練習を始めた。
最初はCDの曲を使用していたが、
「曲作りとかやってみない?」
誠二がそう言い出して僕等は自作の曲を創り始めた。
高校生男子二人、しかも国語の苦手な二人の作った曲はベタなものだった。
「アニメソングになら使えそうだ。」とか、
「綺麗事のオンパレードだ。」
そう言って僕等は笑った。
二曲目もまた同じようなやつが出来た。
歌詞には綺麗事が増えた。
アニメソング突入。
三曲目はマイナーな感じを出そうとしたのだが、僕らの作詞はただの懺悔だった。
でもこれ聴かれたら怒られるよな。
誰が好んでこんな曲聴くんだよ。
僕等はまた肩を震わせて笑い合った。
それから僕らは自作の曲をいくつも作った。
「綺麗事も少しずつマシになった。」
誠二が言って、笑った。
十二曲目にようやく満足できる曲が出来た。
『SAKURA』。
題名の通り桜をテーマにした曲だった。
ギターの練習場としている公園は桜の花が咲き誇っていて、その下では小さな子供が楽しそうな笑顔で桜の花びらを集めて遊んでいる。
僕等はその姿を微笑ましく眺めていた。
僕等はこの曲を中心として簡単な活動を始めた。
自信がある訳でもなかったが、無い訳でもない、そんな僕らの演奏。
文化祭のとき、ステージで歌った。
自作の曲を歌うのは恥ずかしかったが、聴いてくれる人がいたから歌えた。
弦を弾く。
僕らの音色が体育館に響く。
マイクに向って声を出すが、緊張しているせいかリズムが合わない。
しかし、隣で歌っている誠二が支えてくれた。
サビで高音と低音に分かれる。
最後の弦を弾いた。
体育館にその音は響き、静かに溶けていく。
そして、僕等は歌い終えることができた。
すると、体育館に大きな拍手が沸いた。
アンコール!
アンコール!
拍手にあわせ、声が届いた。
こんなことがあるとは思っても見なかった。
僕と誠二は顔を見合わせた。
嬉しくて声もでなかった。
「歌おう。」
誠二が笑顔で言った。
弦を弾く。
大きく息を吸う。
一曲はCDを聴いて練習した若手アーティストの曲で、もう一曲は一ヶ月前に練習場である浜辺で作った曲だった。
僕等は思いっきり弦を弾き、声を張り上げた。
僕らからの感謝の言葉を歌に変えて……。
歌い終わった僕等は礼をしてステージを下りた。
まだ止まない拍手が僕らの耳に届く。
なんと言葉に表していいのだろうか。
僕等は顔を見合わせて笑った。
その後、女子生徒にサインを求められたり、曲のリクエストも貰った。


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