僕は硝子に映る自分の姿を見た。彩に出会うまで、大人になった僕が何か忘れていたものがあった。数字など、ただの人がつけた評価に過ぎない。 「観覧車からの夜景、すごく綺麗でしたね!」 「特等席だったろ?」 彩は笑顔でうなずく。夜景も彩に出会うまで、こんなに綺麗だとは思わなかったし、帰ってから夜景を見ることもなかった。 まだ雪は止まず、僕らは雪が止むのを待つため、二杯目の珈琲を頼んだ。 「あの時間に観覧車に乗ったときにさ、頂上で点灯式見れるかって思ってさ。」 僕の思ったとおり、この遊園地で一番の特等席だった。僕は運ばれてきた二杯目の珈琲にミルクを入れる。 「何度か見たことあるんですか?」 「結構時間ズレたりして頂上で見れたのは初めてなんだ。」 頂上ぴったりで見ることができたことにちょっと達成感を感じた。彩にも最高の景色を見せてあげられたし。心地良いクラシック音楽が流れる。今日は疲れたのか、少しずつ眠気が襲ってくる。 外はイルミネーションの鮮やかな光と、そのカラフルな光によって色を持たない雪が色づいたように見える。 「亜紀良さん。ありがとうございました。」 彩は僕にそう言って、小さく頭を下げと綺麗なプラチナブランドの髪が彩の顔の前にはらり、と掛かる。 「僕こそ。」 僕の瞼が重くなっていく。はっきり覚えていないが、向かい合って座っていたはずの彩が僕の隣に腰掛け、そんな僕を見ているのだろう。 「See you again.」 彩の透き通った小さな声。そして、僕にキスをする。あっと言う間の口付けで、寝ぼけた僕にはそれが現実だったのか夢だったのか分らなかった。そのまま僕は睡魔に負け、心地良い眠りに落ちた。彩の言葉が何を意味するか、心のどこかでははっきりと分っていたのに。 僕の意識がはっきりしたのはその数時間後だった。僕の時計は十一時を回っている。しかし、目の前にも隣にも、彩の姿はなかった。外ではまだ雪が降り続き、辺りは白く染められ始めた。 「彩・・・。」 最初から、彩の話を聞いた日から分っていたことだった。 今、外を急いで探せばもしかしたら見つかるかもしれない。まだ間に合うかもしれない。 そう思ったが、止めた。僕のポケットに何か入っていることに気づく。でてきたのは、見覚えのない淡い水色の封筒。表には丁寧な文字で僕の名前、裏には彩、と書いてある。 封筒を開けると、便箋が入っていた。 『 亜紀良様 まだ雪は降っていますか。私たちが会った日も、別れる日も雪の日でしたね。 亜紀良さんと過ごした数日間、私にとって最高の人生でした。ありがとうございます。亜紀良さんにはたくさん迷惑をお掛けしました。 私を一人の人間として接してくれて、すごく嬉しかった。 亜紀良さんとはもっと一緒にいろんなこと、話したかったです。私が人間だったら良かった、とか思ったりしたけど、もしそうだったら亜紀良さんとは出会えなかったかもしれない。そんなふうに思います。 もし、まだ私に自由な時間が与えられたなら、また会いに行っても良いですか? また一緒に夜景を見てくれますか? 私は、亜紀良さんが好きです。 彩 』 僕は、また外を見た。一瞬、彩と過ごした日は本当の出来事だったのかと思ったが、彩からの手紙を見て、確かに彩はいたと確信する。同時に僕の心のそこから一瞬にして温かく感じた。僕は大きく伸びをして、彩からの手紙をポケットに入れると、雪の降る中駐車場へと向った。振り返ると大きな観覧車が見えた。それは、何故か小さい頃に見たものより、大きく見えたのは気のせいだったのか。観覧車に背を向け、僕は前に向って歩き始めた。 [先頭ページを開く] [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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