物語

天使が舞い降りた日には* 13


 影が長くなっていると気づく頃には、もう日は落ちて星が一つ、二つと輝き始めた。園内各所のスピーカーから点灯式の案内が流れる。
 僕ら見上げる先にあるには大きな観覧車。遠くからでも見えるこの観覧車を目の前にする。彩をつれ、そのうちの一つのゴンドラに乗り込む。ゆっくりと地上から離れて行き、人も建物もあっと言う間に小さく見える。すでに園内が眼下に広がる高さまで来た。
時計を見る。あと少し。
「彩、ちょっと来て。」
彩とほぼ電灯と窓などの光だけの園内を見下ろす。秒針は後数秒で一二時と重なる。
「彩、外見てみてよ。」
彩は窓に手をつき、外を見る。そのとき、秒針は一二時と重なった。一瞬で園内に明かりが灯る。温かな白い光が眼下に広がり、園内を包み込んだ。
「わぁっ」
 彩が笑顔で歓声を上げる。アトラクションは色とりどりのカラフルな光が灯っていた。
「な。すごいだろ?」
「とても綺麗、です。」
ゴンドラはゆっくり下がり始め、イルミネーションの明かりが次第に近くなっていく。
僕は夜景に見入る彩の横顔を眺めていた。ずっと見ていたい。そう思った。
 僕らはゴンドラから降り、イルミネーションが施された園内を歩きだす。そのとき、空から光に照らさせ銀色に光るもの、雪が降ってきた。それはゆっくりと僕らの上に降ってくる。
「・・・彩?」
 突然立ち止った彩を振り返る。彩は穏やかな笑顔で僕を見ている。彩のスカートが風でふわりと揺れた。少しの沈黙。
 そして、彩が僕に抱きついた。彩は僕を離すまいと僕の背中に手を回す。
「・・・。」
園内に流れる音楽だけが響く。僕は彩の頭を撫でると、彩は顔を上げた。
「亜紀良さん。」
「ん?」
 彩は僕に笑顔を見せる。その笑顔は優しそうで、でも切なくて。
「ありがとうございました。とっても楽しかったです。」
 彩は僕に礼をする。雪は静かに、静かに降ってくる。
あぁ、僕らが出会った日も雪が降っていた。
「・・・良かった。それより、寒くない?」
 冬の風が吹き抜ける。それは何かを告げるように。
「店にでも入ろう。」
 彩が頷く。僕らは一番近くにあったカフェに入る。店内ではクラシック音楽が静かに流れていて、ゆっくりとした雰囲気だった。珈琲を頼み、雪の降る外を見た。
「私が亜紀良さんに助けてもらった日も、こんな雪の日でしたね。」
 彩はそう言って珈琲カップに口をつける。オレンジ色の淡く柔らかなライトが店内に満ちて、彩の顔立ちがより綺麗に見えた。
「なんだか早いな。」
 僕がそういうと彩は笑った。穏やかに優しく、まるで天使のように。
「そうですね。」
 僕らの間には少しずつだけど何か違和感が生まれたことに僕は心半ば気づいていた。
「この四日間、早かったですね。」
 本当にあっという間だった。「明日、何しよう?」と自然に毎日考えて過ごしていた。映画館や水族館、遊園地、僕がしばらく行っていなかった場所。昔は毎日が楽しかった。「今日は何をしよう」と胸をふくらませて・・・。


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