物語

天使が舞い降りた日には* 12


 店で寝たままどうなったのか彩に聞いたところ。彼女が僕を車で此処まで連れてきてくれたらしい。
「あ。」
 テレビの横に掛る予定の書き込まれたカレンダーを見て、はっとする。彩と出会ってから今日で五日目。彩の言った限られた時間まで後一日しかない。今日、僕は彩を連れて行ってやろうと思う場所がある。彩はよくベランダから風景を眺めていることが多かった。だから、僕は良いことを思いついたんだ。
「なあ、彩。あとどれだけ時間あるのか?」
 彩は首をかしげ、少し迷った後僕に言う。
「よくわかりません。けど、今日が最後の一日になるんですよね。まだ私自身、そんな実感ありませんし、でもこれ以上亜紀良さんには迷惑をお掛けできません。」
 パソコンで天気予報を見ると、午後からは雪になりそうだ。眉の太い雪だるまのマークが左右に揺れている。
「じゃあ、今日の夜は大丈夫なんだよな。」
「多分、大丈夫です。」
 僕は彩に切り出した。
「行こうか。」
 上着を羽織る僕に彩は問う。
「何処に、ですか?」
「多分彩が喜んでくれるところ。」
 僕は彩に笑顔を見せた。彩はまだ行き先を知らない。彩が喜ぶ顔が見たい。

 着いた時にはもう昼だった。大きな観覧車が部分的に見え始めると、何分もしないうちに駐車場に入る。
 入園口のゲートをくぐると、軽快な音楽が園内から流れてくる。子供連れの家族や若いカップルが楽しそうに歩いていた。
「此処が到着地点ですよ、っと。」
 彩はぱっと笑顔を見せる。無邪気で繊細で、この世の穢れを知らない笑顔を僕に見せた。
「夜にもっといいもん、見られるからさ。」
小さな子を連れた親子が手をつないで、楽しそうに「次、何に乗ろうか?」と話している。中学の制服を着た修学旅行のグループも楽しそうにアトラクションを指差して、僕らの前を走って行った。
「それと、ナマコ同様。絶叫系も僕は無理だから。」
 僕は高い場所などは平気だが、スピードが苦手だった。友達に誘われ、何度か小さなジェットコースターなどに乗ったことがあるが、急降下の瞬間の背筋が凍りつくような感覚がとてもじゃないが耐えられない。
「わかりました。」
彩はまた笑う。僕らは園内の散策を始めた。
アトラクションなどが多い広場の中心にあるメリーゴーランド。ちょっとリアルな馬たちが音楽に合わせて揺れる。
 彩に引かれるまま、メリーゴーランドの入口を抜ける。メリーゴーランドに乗るなんて、何年ぶりだろう。子供の頃は何回も何回も繰り返し乗ってたなぁ。
「この馬にしましょう。」
 彩が指差した馬は白くて、一番大きな馬だった。
彩が跨った後、まだスペースのある馬の背中を叩き。
「乗りませんか?」
 僕は馬に飛び乗る。小さい頃はもっと馬が高く感じた。
ピリリリ、という音ともに動き始め、ゆっくりと回りだすメリーゴーランド。
「彩、こっち見て。」
僕はケータイをカメラモードに設定し、二人が写るように手を伸ばす。シャッターを切ると、カシャリ、と機械独特の音がする。
「撮れましたか?馬。」
 彩が笑う。メリーゴーランドは徐々にスピードを落としていき、アナウンスとともに止まる。出入り口が開かれると、小さな子どもたちが駆け込んできて馬を選んでいる。
 お化け屋敷や映像系のアトラクション、コーヒーカップ、ゴーカート、バイキング、小さい子供に風船の配る着ぐるみ、華やかなパレード・・・。


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