物語

天使が舞い降りた日には* 11


 駐車場に戻り、車に乗り込むと車を発進させる。行きに見たイルカの大きなアーチを潜ると、イルカが笑顔で『またきてね♪』と手を振っているイラストが裏についていた。行き来た道と同じ高速道路を使って帰宅したころには五時になろうとしていた。街は茜色に染まり始め、気付いたころにはあっという間に空には星が光り始める
 彩は、ベランダで夜の街を見ていた。クリスマスになればこの街もイルミネーションが施され、街は綺麗に彩られる。しかし、クリスマスのイルミネーションがされるのはまだ先である。信号機、電子看板、街頭、家の明かり、車の赤と白のライト、遠くに見える防波堤の明かりくらいしか見えない。
「な。街のほうに行ってみない?」
と、誘うと彩は上着を羽織ると、僕のところへ走ってきた。
昼のことがあったので、少しでもばれないようにようにと、彩にレンズのついていない眼鏡を彩に掛けさせ外に出た。
 街は僕にとっていつも通りだった。昼に比べ、真っ暗になってしまっているところもあれば、逆ににぎわい始めた場所もある。夜の空をコウモリが雑な飛行をしていた。
「彩は明日、行きたいところとかある?」
「亜紀良さんの好きなところに。」
 彩は笑う。しかし、僕はこの答えがほしかった。明日が最後の一日だった。
アーケードを抜け、横断歩道を渡った先の店に僕らは入る。店内は綺麗なギターの音色が響いていた。今日は僕より数歳若い人たちが多かった。僕らはカウンターに座り、メニューを彩に渡した。この店で花魁と呼ばれているバーデン服の化粧の濃い女性は、僕の従姉にあたる人だ。
 彼女は僕らの注文したカクテルを慣れた手つきで、しかも片手で作りながら彼らの演奏を聞いている。
「今日、あいつらの同級生が来てるんだ。」
「だからか。」
 僕はステージのほうを見る。テーブル席からは曲のリクエストなどの声が聞こえてくる。二人はリクエストに応じて、今度公開される恋愛系映画のテーマ―曲を歌い始めた。CМで何度か耳にしたことある曲だった。続いて、若者に人気の曲や彼らが学生時代に流行った曲などを奏でていた。天井には大きなファンが二つ、回っている。
「ちょっと飲みすぎじゃないのかい?」
 彼女がいつもより飲んでいる僕に呆れて言う。
「あんた飲むのはいいけど、その後寝たら起きてこないだろう。・・・聞いてるかい?」
 アルコールがそこまで強くない僕だったが、今日はいくらでも飲める気がした。実際、本当に気がした、だけだったようだ。彩は僕より少し量は少なかったが飲んでいたのに、少しも酔っていないようで、いつもと変わらぬ口調で僕に話しかける。僕は彩が何を話しかけてきたのか、自分が何と答えたのか全く覚えていない。
 僕が次に目を覚ましたのは明くる日の朝だった。


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