次の日、私は午前十一時に電話をかけた。夏休み中なので、私は一日中暇なのだ。正直に言うと、暇ではなかった。まだまだ課題がたくさん残っている。しかし、暇でないときこそ、暇といいたくなってしまう。 「・・・はい、もしもし。」 兄の声が受話器から聞こえた。しかし、兄の声は昨日と少し様子が違う。 「もしかして、今起きた?」 「そうだけど。」 やはり、そうか。私は笑いをこらえた。 「今、もう十一時だよ。」 「え、本当?」 受話器の向うで、がさがさと音が聞こえた。時計でも見ているのだろうか。 「本当だ。」 兄の驚いた声が聞こえた。 「いつも何時に起きてるの?」 「その日に起きた時間だよ。昨日は七時だったなぁ。」 どうしてそんなに時間差があるんだ! 「真子の声が、母さんによく似ているから、妙に迫力があるよ。」 兄が笑っていた。私の声が、母に似ている・・・? 「真子に会ってみたいよ。」 私の中には、今兄が言った言葉が何度も繰り返されていた。 「私も、会いたい。」 この声の持ち主、私の兄に会いたい。まだ、兄の顔を知らない。まだ、兄の性格を知らない。だけど、とても親近感が沸く。 「僕はいつでも、会いに行ける。真子の都合で、動くよ。」 できることなら、私は今すぐのでも会いたいのだ。私は、電話の横にある、メモ用紙の付いた小さなカレンダーを見た。現在、八月四日だ。 「夏休み中。八月三一日までに、会うのはどう?」 私は兄の返事を待った。 「いいよ。日にちは、いつでもいいね。でも、ひとつ条件がある。」 「何?」 「僕が行くときに、真子に連絡するから、駅まできてほしいんだ。」 私は笑って言った。 「言われなくても、行くつもりだったよ。」 すると、受話器に向こうから玄関のチャイムの音が聞こえた。 「じゃあ、電話切るね。また、明日。」 「それじゃあ。」 私たちは電話を切った。兄は、来てくれると言った。 「和君は何て言ってた?」 洗濯物を、干している祖母が訪ねた。 「来てくれるって!」 祖母が振り向いた。 「本当かい?」 「本当だよ。」 「真子ちゃんが会いに行くほうが、いいんじゃないかい?」 祖母は心配そうに言った。 「うん。だけどいいの。」 私はそう言うと、夏休み期間中の課題を終わらせるため、部屋を出た。 [先頭ページを開く] [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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