物語

閉じられた本 3


 次の日、私は午前十一時に電話をかけた。夏休み中なので、私は一日中暇なのだ。正直に言うと、暇ではなかった。まだまだ課題がたくさん残っている。しかし、暇でないときこそ、暇といいたくなってしまう。
「・・・はい、もしもし。」
 兄の声が受話器から聞こえた。しかし、兄の声は昨日と少し様子が違う。
「もしかして、今起きた?」
「そうだけど。」
 やはり、そうか。私は笑いをこらえた。
「今、もう十一時だよ。」
「え、本当?」
 受話器の向うで、がさがさと音が聞こえた。時計でも見ているのだろうか。
「本当だ。」
 兄の驚いた声が聞こえた。
「いつも何時に起きてるの?」
「その日に起きた時間だよ。昨日は七時だったなぁ。」
 どうしてそんなに時間差があるんだ!
「真子の声が、母さんによく似ているから、妙に迫力があるよ。」
 兄が笑っていた。私の声が、母に似ている・・・?
「真子に会ってみたいよ。」
 私の中には、今兄が言った言葉が何度も繰り返されていた。
「私も、会いたい。」
 この声の持ち主、私の兄に会いたい。まだ、兄の顔を知らない。まだ、兄の性格を知らない。だけど、とても親近感が沸く。
「僕はいつでも、会いに行ける。真子の都合で、動くよ。」
 できることなら、私は今すぐのでも会いたいのだ。私は、電話の横にある、メモ用紙の付いた小さなカレンダーを見た。現在、八月四日だ。
「夏休み中。八月三一日までに、会うのはどう?」
 私は兄の返事を待った。
「いいよ。日にちは、いつでもいいね。でも、ひとつ条件がある。」
「何?」
「僕が行くときに、真子に連絡するから、駅まできてほしいんだ。」
 私は笑って言った。
「言われなくても、行くつもりだったよ。」
 すると、受話器に向こうから玄関のチャイムの音が聞こえた。
「じゃあ、電話切るね。また、明日。」
「それじゃあ。」
 私たちは電話を切った。兄は、来てくれると言った。
「和君は何て言ってた?」
洗濯物を、干している祖母が訪ねた。
「来てくれるって!」
祖母が振り向いた。
「本当かい?」
「本当だよ。」
「真子ちゃんが会いに行くほうが、いいんじゃないかい?」
 祖母は心配そうに言った。
「うん。だけどいいの。」
 私はそう言うと、夏休み期間中の課題を終わらせるため、部屋を出た。



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