昨日の晩は結局一睡もすることができなかった。自分の選択が本当に良かったのか、今更になって考える。一度決めたことだ!と簡単に押し切ることが僕にはできなかった。彩は自分と葛藤する僕の隣で眠りこんでいる。『自分が自分の意思で動ける時間は後四日間』。今、彩はどんな気持ちで過ごしているんだろうか。一秒一秒が怖いのか、それとも楽しんでいるのか。僕には良くわかないけど。 今日は晴天だった。吹雪はおさまり、青空が広がっていた。今朝は僕より彩のほうが早起きで、ベランダから外の景色を眺めていた。 此処の町は大きく地形が開けており、僕の部屋のベランダからはこの町一帯が眼下に広がる。僕が起床したとき、ベランダに立つ彩を見て急いで止めようとしたが、止めた。 後三日間。 これが決められた時間だった。どんなに僕らが足掻いても、その時間を変えることはできないだろう。テレビの中ではまだ『ヒト型兵器』の話題が繰り広げられていた。世界の科学者や心理学者が集まり、たくさんの意見を交わしあっている。「『兵器』なんて元からなかった。」、「政府が隠し持っている。」、「テロ組織の手に渡った。」・・・・・・。 しかし、どれも今の状況を推測できた人はいなかった。僕ら的には「『兵器』など元からなかった。」と諦めて、忘れる結果になることを望むが、これは世界の大問題に発展している。彩を生み出した研究所の人間は今のところ、誰ひとり見つかっていないそうだ。パソコンの中ではもっと違った考えがたくさん公開されていた。「兵器のくせ、マジ美人!」、「ほんとに人なんじゃないの」、「何故作ったか不明。」、「作った人、誰だったんだ?」・・・・・・。 「『ヒト型』ってことだから、人間にまぎれて生活してたりして(笑)」と的を射たコメントもあったがそれを本気で捕らえる人間が何人いることだろうか。 たった今、この小さな町のマンションから外を眺めている彼女こそが『ヒト型兵器』だというのに。意外と大きなニュースもこういう事実が多いのだろうか。 僕は彩の隣に立ち、聞いた。 「どこか行きたい場所とかある?」 彩は首をかしげ、ベランダから見える駅を指差した。 「昨日、亜紀良さんが昨日見ていましたから。」 確かに僕は駅ではないが線路を見ていた。すると、僕らの耳に踏み切りの音が聞こえ、車体の青い電車が通り過ぎて行く。 「電車、か。なぁ、あんまり遠くは無理だけど、行ってみようか。」 彩は大きく頷いた。 あまり遠くには行くことはできないが、いくつか先の町に知り合いがいる。そこ辺りまでだが連れて行ってあげよう。 彩は僕の服を身につけているが、やっぱり小柄な彩には大きすぎる。僕のジャケットも彩にはロングコートのようになってしまう。しかし、彩はそれが気に入ったのか、これが良いと言った。髪を結び、帽子を深く被った彩を連れ、僕らは街へ繰り出した。 [先頭ページを開く] [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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