物語

天使が舞い降りた日には* 4

 昼からは昨日までの灰色の空はなかったかのように青空が広がっていた。今の僕はもう天気なんか気にしている場合ではなかった。
 幾度もそのニュースは流れ続け、僕は気が気ではなかった。そんな僕をよそに、このニュースの根源は天使のような笑顔を僕に向けている。僕はそんな彩の向かいに座る。
「これからどうするつもりなんだ。」
 彩は少し考え、
「研究所に戻るつもりはありませんし、これからどう動けるかもわかりません。でも貴方様にさらに迷惑をおかけするわけにはいきません。今日中には此処から出ようと思います。」
「動けるかもわからない、って。」
 もし世間に彩、『ヒト型兵器』といるところが知られてしまえば、僕の言い訳など誰が信じるものか。全国指名手配犯は刑務所にぶち込まれること、間違いなしだ。しかも、日本だけの問題ではない。今や世界中で大問題になっている。彩には悪いが、出来ればこれ以上関わるのは良くない。
「それに・・・・・・、」
 彩は少し悲しそうな表情で僕に言った。
「自分が自分の意志で動ける時間がもう限られているので。」
・・・・・・自分が、自分の意思で動ける時間・・・・・・?
「え。」
「はい。初めは『人間』を人工的に作っていたんです。しかし、研究所で私を作っていたリーダーが無実の罪で捕らえられてしまいました。作りかけの私はその後、研究所の方々が復讐目当てで私を改造し始めました。リーダーの作っていた『人間』はもう『こころ』まで完成していたんですよ。」
「・・・・・・そうか。みんな自分勝手だったんだな。」
 何故、そんなことが起きたのか。
 何故、自分は『人間』として生きられないのか。
 きっと彩は何度も考えたことだろう。もう機械ではなく一人の人間であるのに、復讐のため兵器として改造された。
「でもやっぱり『人間』と『兵器』を組み合わせるには無理がありました。この体の『人間』が自分の意思で動けるのはあと四日間。その後はただの兵器であるか、ただの機械でしかありません。」
 彩は自分の両手を見ていた。
 あと四日間。それが彩に与えられた自由な時間。
 僕はこれまで二四年間生きてきたが、何をしてきただろうか。毎日の繰り返し、繰り返し、繰り返し・・・・・・?
・・・・・・数字、数字、数字、数字、数字、数字、数字、数字、数字?
 本当に自分は自由だったんだろうか。これから自分は繰り返す日々から変われるのだろうか。
・・・・・・賭けてみようか。
 僕は彩に向き直った。
「その四日間、僕も付き合っていいかな。」
 僕の選択が正しいものであったのか、間違いであったのか。そんなことどちらでもいい。きっとこの選択の結果、僕は幸せになることも、自由になることもないだろう。
 でも、四日間に賭けてみようと思う。


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