物語

天使が舞い降りた日には* 3

 次の朝、もう雪は止んでいた。しかし、最上階のベランダから見る限り、この街は真っ白に染められていたが、まだ陽は上っていないため、遠くの雲だけが薄く光っている。
 僕がベランダで日の出を見ていると、隣に彩が立っていた。さっき僕が見たときはまたリビングのソファで寝ていたので一瞬、誰かと思った。東の空が少しずつ茜色に染まり始め、彩の髪を茜色に染めていく。彩は僕の頭一つ分くらい小さくて、僕は彩を見下ろした。  彩は僕を見上げ、紫色の瞳を僕に向ける。
 カンカンカンカン・・・・・・
 此処から見える踏切の音。あそこの踏み切りで去年、僕の幼馴染が自殺した。理由は彼女との些細なトラブル。そして後追い自殺。彼は自分の彼女が同じ学部の男子と歩いているのを浮気していると勘違いして彼女に詰め寄ったところ喧嘩になり、家を飛び出した彼女はその後車道に飛び出し事故死してしまった。自分の責任だと、彼は彼女が残していった赤いハイヒールをずっと玄関に置いていた。僕も彼女の事故後、彼の家に行ったことがあるがその赤いハイヒールが残っていた。そして間もなく、彼はこの踏み切りに飛び込んだ。
 その線路を通過する電車を見ながら僕は、彼のことを思い出していた。
僕らは部屋に戻り朝食の支度を始めようとした。
 テレビでは若い女性リポーターが都会の公園前で現在天気を伝えていた。そう、たった今まで。
突如画面が移り変わり、畏まった男性アナウンサーが映し出される。
その隣には大きく、『実験中ヒト型兵器 盗難か』とテロップが流れ、そのニュースが慌ただしく始まる。
 とある国の組織が開発していた『ヒト型兵器』が無くなったという、聞くだけでは簡単な事件だった。
画面の中では大騒ぎになっているのだが、今のところ僕にとっては「そんなもの作ったからではないか。」と、そんな感想しか思いつかない。
ましてやこんな人気のない街に関係する話か。まぁこれからこの兵器がどうなるのか、と予想も面白い。
と、僕は他人事だと思っていた。その瞬間まで。
今、自分の隣に立っている人間が、騒ぐテレビの画面に映し出された。
「・・・・・・は?」
僕は彩の横顔を見る。しかし、本人も何と言った動揺もなく画面を見ていた。
「なんですか?」
僕の視線に気づいた彩は僕に問う。
「え、いや、これ。」
テレビ画面に映る彩そっくりの『ヒト型兵器』を指さす。彩は少し考えて、表情も変えずに言う。
「私、ですね。」
ほらきた。こういうパターン。彩が今、全世界で騒ぎを起こした火種『実験中ヒト型兵器』だということ。
テレビに映るアナウンサーは次々と入るニュースを伝えていく。
「・・・・・・なお、現在『ヒト型兵器』を所持している者を捜査中です。」
男性アナウンサーはロボットのように記事を全国に話しかけている。
そして今の言葉で今、僕は彩を所持しているということになった。
「はい。まじですか。」
僕が望む非日常。只今開始したようです。


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