物語

天使が舞い降りた日には* 2

 
 身体に合わぬ大きなフード付きのコートを羽織り、倒れているこの生き物はびくともせず、僕は焦った。
なんでこんなところに人がいるんだ?
僕が全て雪を払いのけるとき、顔は見えないがフードから雪と同じ色の白色の髪が垂れた。
白髪。まさかの老人?
「今、救急車呼びますから。」
僕がケータイ開いたときだった。
それは小さく動いた。顔はまだみえないが、「止めてください。救急車、呼ばないで下さい。」と震えた小さな声で訴えた。
「え?」
「止めてください。お願いです。」
僕は必死で訴えるそれを見た。とりあえず救急車は呼ばなくても、こんな寒いところに放って置くわけには行かない。
「雪がやむまで、休んでいったほうが良いですよ。此処じゃ寒いでしょう。」
僕は寒さに震えるそれを家に上げ、暖かい紅茶を淹れた。それはフードを深く被り、震えている。
「どうしたんですか?道にでも迷ったんですか?」
最近、お年寄りの行方不明者が増えている、もしかしたら道に迷ったとかかも知れない。
「・・・・・・いえ。」
「ならどうして。」
それは泣きそうな声で、僕に言った。
「誰も呼ばないでください。」
僕はどう対処してよいのか分からなかったが、とにかくこんな寒い処に置いておくわけにはいかない。雪がやむまででも僕の家で休んでいってもらおう。僕はそう説得すると、その人を家に上げた。
「少しの間此処に置いていただけませんか。いますぐ出ていけと言うのであれば、その通りにします。ほんの少しだけで良いんです。」
僕は返事に困った。知らないお年寄りを家に置いておけるわけがないのだが、雪がひどい外に放り出すわけにもいかない。雪がやむまで、それくらいなら僕は構わない。
「それに、あなたは誰なんですか。名前は。」
「・・・・・・彩。」
「アヤ?」
『アヤ』は頷く。
「年は?」
「・・・・・・二十くらいになると思います。」
くらい、じゃよく分らないが、僕より少し年下じゃないか。
「家は何処なんですか?」
 『アヤ』は首を振った。
「海外です。今日、日本に来たのですが道に迷って。」
あぁ、なんとなく状況はわかった。僕は『彩』の顔が見たくてしょうがなかった。フードを深く被っており、先ほど見えた白色の髪・・・、 一体何者なんだ?
「顔を上げてください。もしかしたらあなたのことが分るかもしれません。」
僕は『彩』にそういうと、「・・・わかりました。」
『彩』は少し躊躇ったが、僕の様子を伺いながらフードを脱いだ。
肌は乳白色で髪はプラチナブランドのセミロング。そして紫の虹彩。蛍光灯の光が眩しいのか眼を細めている。
まるで翼のない天使でも見ているかのようだった。年というものを超えた、そんな存在。
付け睫毛をつけたような長い睫毛が影を落す。
僕は天使に眼を奪われていた。
「わかりますか?」
天使は僕を見つめ、そう訪ねた。
「いや。」
「そう・・・ですか。」
天使は悲しそうに下を向いた。この天使は僕が此処において置けないと断れば何処へ行くのだろう。もしかしたら無神論者の僕を試しているのか。夢か。

僕は、少しの間、天使と過ごすことになった。

外はまだ雪が降り続いている。
僕が座っているソファの隣に彩が座った。僕の心臓はますます早く鼓動を打つ。このままでは今日の命も危ない。僕は彩を見つめ。彩はただ前を見ていた。何分かすると彩の目はまどろんできた。そして、僕の肩に頭を乗せ、深い眠りに落ちた。寝息を立て、起きる様子を見せない彩を僕はソファに寝かせた僕は毛布を寝室から持ってきて、それを華奢な彩に掛けた。
結局その日、僕は一睡もせずに安心して眠る彩を見ていた。こんな見ず知らずの男の家に突如現れて自分を此処に置いてくれと言い出す女が何処にいるだろう。あんな古く薄いコートだけじゃ明日には凍死してしまっていたかもしれない。それに、僕じゃない男がいたとしてもこの容姿では襲われてしまっているかもしれない。もしかしたら彩は何か・・・・・・。
でも、彩が何か悪いことを企んでいるのであればこんなに眠ってしまったりはしないだろう。一体、彩は何なのだろう。天使・・・・・・、彩を見ながら僕は思った。


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