物語

閉じられた本 2



私に兄がいる、ということを知ったのは、先週のことだった。今まで、そんなこと誰も教えてくれなかった。
兄は私より四歳年上で、今は一人で暮らしているそうだ。今は机上にある、あの写真を見た。
「真子ちゃんと和君は、よく似ていたよ。」
確かにその子は私の小さい頃と、そっくりの顔だ。兄はどんな人なのかを、祖母に訪ねた。兄はどんな人なのだろうか。でも、その前に聞きたいことがある。私は祖母に言った。
「どうして、今まで会えなかったの?」
 祖母は私の頭を撫でた。そして、言った。
「真子ちゃんみたいに体が強くないんだよ。それと、遠くの親戚の家に住んでいるからね。」
 兄は体が弱いのか。入退院を繰り返していた、と私は解釈した。
「会ってみたいかい?」
私は何度も頷いた。会ってみたい。写真に写る兄は、昔の私に似ている。今も似ているのだろうか。もし、そうでなくても私は家族に会いたかった。まだ、会った事の無い、私の兄と・・・。
私は早速、兄の住所を祖母に教えてもらい、兄へ手紙を書いた。内容は出来るだけ、簡潔な文にした。あなたに会いたい。それだけ伝われば良いのだ。
どんな人だろう・・・。
私はいつも、そのことばかり考えていた。自室の障子を開き、外の空気を入れる。庭へ行き、飼っている鶏に餌をあげて、縁側に寝転ぶ。仰向けになって、想像を膨らませていくのだ。まだ、知らない兄の姿を想像する。
それから一週間後、兄から電話がかかってきた。最初、電話を取ったのは祖母だったが、受突然、受話器を渡された。私は、何を話していいか分らず、「・・・もしもし。」とだけ、言った。
すると、受話器の向こうから、若い男性の声が聞こえた。
「真子だろう?」
兄の声だ。初めて聞く兄の声だったが、どこか懐かしいような気がした。
「はい。真子です。・・・お兄ちゃん。」
 すると、受話器の向うから小さく笑い声が聞こえた。
「そうかぁ、真子と話すのは初めてだったね。僕のこと、覚えてた?」
 私は兄のことを一つも覚えていなかった。兄がいることさえ。
「ごめんなさい。覚えてない。」
 また、小さな笑い声が聞こえる。
「いや、謝らなくていい。真子と僕は一年しか一緒にいなかったんだ、仕方ないさ。」
 一年だけ一緒にいたときがあったらしい。でも、私は思い出せなかった。
「真子は今、一五だろう?中三かぁ。」
「でも、ここは子どもが少ないから、小学校から高校までひとつの校舎なんだ。」
「じゃあ、高校受験は無いわけだ。」
「クラスメイトとは、一二年間一緒だよ。」
 私たちは自分たちのことを話した。兄は今、親戚に誰も住んでいない家をかりて、住んでいるらしい。私たちは、祖母に止められるまで話し続けた。今度は私から、兄へ電話をかけよう。兄の声は、とても静かで優しかった。少しの騒音の中でも、すぐに消えて、壊れてしまいそうな声だった。




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