物語

一途 2


 一二月一四日、午後八時。
 友梨と待ち合わせ場所にしている大学の噴水の前へと向った。そこには僕らと同じ場所を待ち合わせにしていたカップルが続々と集まっている。まぁ、此処が一番分りやすい場所と言う事もあるからだ。
 友梨は青いロングスカートに白いコートを羽織っており、赤いハイヒールを履いていた。背の低い友梨がヒールの高さで、やっと僕の目の高さに彼女の頭が来る。まぁ、どちらにせよ、彼女は僕を見上げる形となるが。
「裕巳、自分のことはちゃんと覚えてないよね。今日は、裕巳の誕生日なんだよ。」
 あぁ、そうか、一二月一四日、今日は僕の誕生日か。
「私、ちゃんと覚えてたよ。」
 友梨は満面の笑みで僕を見上げた。僕はどうしようもなく嬉しくて、彼女を抱きしめた。
「ありがとう。」
 友梨はコートのせいか、羊みたいにふわふわしていた。
「私ね、裕巳のこと大好きだよ。」
 僕はもっと強く彼女を抱きしめた。僕らを見ていた周りの人たちはクスクスと笑っていたが、今の僕らには少しも恥ずかしくなんて無かった。リア氏ね!と叫ばれてもしょうがないだろう。
「私、センスないし、誕プレって何買って良いかわからなくて、気づいたらもう裕巳の誕生日になっちゃってて、誕プレ、今日渡せなくてごめんね。」
 友梨が申し訳ないという表情を向けてきた。僕は自分のコートのポケットから小さな指輪を取り出した。僕は今日、彼女にプロポーズするつもりで来たんだ。
「友梨、ひとつ聞くけど、友梨は僕の隣にいて幸せ?」
 友梨は僕を見上げ、頷いた。
「幸せだよ。だって私、裕巳のお嫁さんになるんだもん。」
 僕は彼女の右手のそっと握って、その指輪を彼女の手の中に入れた。友梨は自分の手の中にある指輪を見て、僕に抱きついた。
「裕巳!」
 僕の背中に手を回し、彼女なりに強く抱きついた。そして、僕の目の前に指輪をはめた左手を突き出した。
 そのとき、僕らの周りで拍手が起きた。僕のプロポーズを見ていた人たちだ。友梨は幸せそうに指輪を見せて喜んでいるが、僕には少し恥ずかしかった。けれど、これで僕らの未来は確実になったんだと思った。ずっとずっと友梨といれるんだ。

 次の日から友梨は結婚式は何処であげようかとか、いつにしようかと話してきた。僕らはいろいろ考えて六月に式を挙げることにした。『ジューンブライド』。ずっと友梨が憧れていたらしい。僕は梅雨の時期なのが少し心配だったが。

 一月二五日、僕らの結婚式はもうすぐだった。この日は友梨が学部の仕事が少し長引くからと、僕は先に帰ろうとしていた。今年は梅雨の時期が早く、湿った雨が町中を包み込んでいた。傘を片手に、僕は町のほうで少し買い物をして帰る予定だった。もう外は暗く、でも、空は雨雲で灰色に染まっている。
「ユリ、走ると転ぶぞ。」
 車道をはさんだ向かいの歩道で、茶色のコートを羽織った若いメガネの男性の声が聞こえた。あの人、見たこと歩きがするなぁ。でも、あの人の彼女の名前も『ユリ』とはね。
「わかってるよう」
 ユリと呼ばれた白いコートの女性が、その男性のところに戻ってきた。白いコートに赤いハーヒールで。そして、楽しそうな笑顔で見上げていた。
 ……友梨。
 まさか、そんなはずない! でも、今笑顔で男を見上げているのは友梨じゃないか! そしたら、彼女は……。


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