物語

雫の音色♪ 10

何処までも続く青空に大きな入道雲が浮かんでいた。
きっと今日は何処の海も人が遊びに来ていることだろう。
全国のテレビでは、子供たちが砂でお城を作っている姿や、浮き袋をつけて親と一緒に遊んでいる姿、数人の男女がビーチバレーをしている姿、多くの人が利用する海の家が映し出されることが多くなったこの時期。
この小さな町の海には歌声が響く。
海の砂浜の端から端までに接するコンクリートの大きな階段の一部で僕らは歌っていた。僕らより一段上で花魁が聴いている。
小さな子供を連れた家族や、友達同士で来た高校生、デート中のカップル……決して賑わっていると言えないが、冬の海の寂しさは消えている。
曲の最後の弦をはじき終わると、誠二が立ちあがり、僕の手を引っ張った。
「花魁、ちょっとギター持っててよ。」
僕等は砂浜に立った。足に軽い砂が着く。誠二は僕の手を引いたまま、走りにくい浜辺をよろめきながら波打ち際へと進む。波が僕等の足を濡らす。
「やあっ!」
誠二が突然、僕の顔に水を掛けてきた。
「うわっ!」
当然のことながら、海の水は塩辛い。
誠二は小さな子供のように無邪気な笑顔で笑う。
その顔に僕が水を掛け返す。
しかし、彼は軽くそれを避けたのだが、泳いできた小さな子供のばた足で跳ねた水がかかり、僕が彼に掛けようとした以上に濡れてしまった。 
「子供使うの反則だろ!」
「使ってないし、反則とかあったのかよ。」
誠二はTシャツを絞りながら、足で僕に水を掛ける。
「うっわ! 二人目の子供来るぞ!」
言葉通り、二人目通過。ばた足付き。
「こっ、子供使用禁止!」
誠二が叫ぶ。僕は笑う。

僕等は、笑った。

きっと、僕等はこの世界にいるどんな人より笑っていただろう。

太陽の光を反射した海面。
大きく高く膨らんだ入道雲。
何処までも遠く高く続く青い空。
僕等には何もかもが新鮮だった。

「なぁ、あの夜、先に走り出したのが僕だったら誠二はどうしてた?」
僕は誠二に問いかけた。
誠二は迷わず、僕に言う。

「きっと、悠と同じ事して、同じこと言って、同じ事考えた。」

 誠二は僕に、まだまだ幼さが残る笑顔で笑いかける。

 二羽の燕が同じ速さで僕等の前を飛んで行った。
 真っ直ぐ翼を広げ、高く、高く……。


                               【END…♪】


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