今日は祝日で僕はいつもよりゆっくりと過ごしていた。 八時に起きて、自室のカーテンを開くと、晴れた空には雲が所々に浮かんでいた。 それから机に散乱した参考書と問題集を重ね、リビングへと階段を下りる。 「はよー。」 妹の間延びした声が聞こえた。 妹も今起きたばかりなのだろうか、パジャマ姿で髪は寝癖だらけだ。 家族も僕の事を気遣ってくれている。階段を下りているときに微かにテレビの音声が聞こえていたが、今テレビはついていない。 僕は顔を洗い、朝食を取り、また自室へと戻ろうとしたそのとき、ドアの近くにある電話が鳴り響いた。 電話に一番近い場所にいた僕が受話器を取った。 「もしもし……」 相手の声は花魁のようだった。 「悠かい? 今から病院に来るんだよ。わかったね?」 そこまで聞くと僕の手から受話器が滑り落ちた。 僕は玄関に置いているジャンバーを羽織ると家を出た。 誠二に何があったんだ? 想像していた最悪の結末が、脳裏に蘇る。 消えろ、消えろ! いくら願ってもそれは消えやしない。 僕は街を走り続け、ようやく病院が見えてきた。 待合室を抜け、エレベーターのボタンを押したが八階で止まったまま動こうとしない。 僕は隣にある非常時用の階段で五階まで駆け上がった。 五階まで登るのはさほど疲れなかったが、焦る気持ちが大きくて足がもつれてしまう。 病室の前で花魁が立っていた。 「遅かったじゃないか。」 僕はその場に泣き崩れた。 きっとこの扉を開くと誠二はいるのだろう。そして、僕の感情は狂ってしまうだろうか。 「早く行ってやりな。」 僕は花魁に支えられて中に入った。 そこにはいつも通り、ぐったりと横になる彼の姿があり、僕は彼にすがりよった。 なんで……なんで。 強く彼の右手を握りしめた。 彼に対する怒りと後悔、罪悪感……たくさんの感情が混じり合う。 「誠二。悠の手だよ。」 花魁がそう彼に向って言った。 その時、微かにそれは僕の手の中で動き、次第にはっきりと僕の手を握り返した。 「意識が戻ったんだよ。」 花魁が誠二の頭をなでた。 まだ酸素マスクを付けているが、確かに彼の口元が動く。 聞きとることはできなかった。 しかし、しっかりと彼の瞳は僕に向けられていた。 「誠二……。」 さっきまでの感情はどこかへ消えてしまい、僕は嬉しくてたまらなかった。 「言っただろう? 馬鹿は死なないってよ。」 花魁が笑った。 誠二が完治するまでにはまだ時間はかかるだろう。 でも、また僕らは一緒に演奏することができるだろう。 そしてまた、自作の曲を作って、あの浜辺で歌うんだって。 そう、一人ではなく二人で…… [先頭ページを開く] [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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