僕は少しずつだが、受験生という現実と向き合うことになった。 息抜きにリビングに行くと、母と妹がテレビを見ながら喋っている。 冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップに注ぐと一気に飲み干す。 僕はテレビに目をやると、丁度次のニュースに変わったらしい。 若い女性のアナウンサーが口を開く。 ニュースを聞いて僕は強く胸が締め付けられたように苦しくなった。 膝を床につけて頭痛を抑える。 徐々に呼吸が苦しくなる。 フラッシュバックのようにあの光景が蘇える。 車の音、人の声、ガラスの割れる音、雨の音、そして……。 「……お兄ちゃん?」 妹が振り返り、僕を怪訝そうな顔で僕を見ていた。 「悠?」 母が立ち上がり、心配そうに僕に近寄った。 まだそのニュースは続いている。 「消してくれ!」 狂ったような大声が部屋に響き、自分の声に驚いた。 妹が急いでテレビを消すと、部屋には僕の荒い息遣いだけが聞こえていた。 ニュースの内容は、車がスリップして事故を起こし死者がでたというものだった。 不安だった。 怖かった。 今の自分の行動がそれを物語っていた。 「ごめん。」 呼吸を整えてから立ち上がり、自室へと戻った。 考えるほど悪い方向を想像してしまう。 僕は部屋のドアを閉めるとベッドにうつぶせになり、枕に顔を埋めた。 病院での出来事を思い出す。 今日、待合室で誠二の父親を見かけたが、目の下には隈ができ、体は痩せこけていた。僕より何十倍も辛いだろう。あいさつをしたが返事はなかった。 誠二とはガラス越しにあうことができた。 たくさんの機械に管で繋がれ、体中包帯を巻かれている。 ギターを弾いて、笑っていた誠二は今の姿から想像できない。 もう一度、誠二と一緒にギターを弾いて、歌いたい……。 僕はそのまま家に帰った。 学校は気を紛らわせるために通っている気がする。 クラスの皆はもう受験に向け、必死で勉強していた。 その空気の中、僕一人浮いている気がしたのは気のせいだったのだろうか、僕だって皆同然必死で勉強しているつもりだった。 志望校も決めて、目標に向って頑張っていた。 事故があった日、ガラスで切った傷はまだ少し跡が残っているが、すでに過去のものとなっていた。 学校の帰り道、あの浜辺に行った。 こんな真冬に海に来る人なんていないことくらい知っていたが、やはり誰もいない海は寂しかった。 僕は、浜辺へと降りるコンクリートの階段に腰を下ろし、海を眺めた。 今の自分もこの冬の海と変わらない。 僕は立ち上がった。 誠二が元気になったら、二人でまたここに来よう。 そしてまた新しい曲を作って歌うんだ。 そしてまた……一緒に笑うんだ。 苦しくなるくらい笑うんだって。 『人生の半分は良い事。もう半分は悪い事が起こるんだ。』 だから、もう少し頑張ろう。 そして、鞄を持つと家へ走った。 もう少し……もう少しの辛抱だから。 [先頭ページを開く] [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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