あれから何日が経過したのだろうか。 僕は病院の廊下を歩いていた。 もうすぐ受験を控えているのに、いくら勉強しても全く頭に入らなかった。 ヤバいと思ったが、やはり何も出来ない。 誠二は今、生死の境目を彷徨っている。 必死で生きようとしている。 だから僕は、此処にいなければならないと思った。 誠二の父親と病院で会った日、僕は何を言っていいかわからずただ下を向いていた。 「誠二は絶対大丈夫だから、それまで俺達も頑張ろうな。」 僕は頷くことしかできなかった。 言葉より先に嗚咽が漏れる。 「……絶対、大丈夫だから。」 少し僕の心は落ち着いた気がした。 そして、僕に誠二の父親は、彼の愛用していたピックを手渡した。 「あいつが目覚めたときに渡してほしい。」 相棒のいないピックはなんだか悲しげに見えた。 「最高の演奏をまた聞かせてくれよ。花魁も待ってるからさ。じゃあ店に帰るよ。」 そう言って廊下を歩いていった。 花魁ともしばらく合ってないな…… そんなことを考えて病院を出ると、丁度花魁に逢った。 今日は店の制服を着ていないせいか、いつもと違って見える。 カールしたロングヘア、真っ赤に塗った厚い唇、ブランド物の重ね着。 「……花魁?」 低い声で花魁が言った。 「相棒はどうなんだ?」 僕等は病院の外にある喫煙コーナーのいすに腰掛けた。 花魁は愛用の煙草を一本取り出し、火をつける。 「悠も大変だったねぇ。」 僕は返事ができず、うつむいたままだった。 すると、優しく僕の頭を撫でてくれた。 「全く、まだまだ子供だねぇ。」 花魁が白い煙を吐き出す。 「……誠二は、」 僕は口を開いた。 しかし、花魁が僕の口に手を当てた。 「大丈夫。馬鹿は死にゃあしないさ。」 僕は目を閉じた。 「泣きたい時は泣くんだよ。でなきゃ体に悪いからね。」 花魁は僕を近くに引き寄せた。 一筋の涙が僕の頬を伝う。 自分が子供の様に感じた。 「願いなんざぁ、信じれば叶うもんさ」 煙草のにおいが鼻につく。 「また、二人で良い演奏を聞かせておくれ。」 僕は頷いた。 「誠二が目覚めたら絶対聞かせてやるよ。」 「私の前でのミスは許さないよ。」 僕は小さく笑った。 僕等はそんな会話を続けていた。 「あんたも体に気をつけるんだよ。」 日が傾いてきていた。 花魁が立ち上がり、バッグを肩にかける。 「誠二も頑張ってるんだ。あんたが頑張らなくてどうする。」 そう言って僕の肩を叩いた。 「花魁も夜はほっつき歩くんじゃないぞ。」 僕の精一杯の強がりだった。 「何言ってんだい。夜は私の時間だよ。」 花魁は僕に軽く手を振った。 花魁の言葉は僕を勇気付けてくれた。 ……誠二も頑張っている。僕も頑張ろう。 僕は病院を後にして、走って家へ帰った。 やはり勉強は頭に入らなかったけど、心は少し楽になった気がした。 [先頭ページを開く] [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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