しかし事が起きたのは高三の初冬のことだった。 僕等は商店街を通って、バーに演奏をしに行く途中だった。 いつも通り何気ない話題で盛り上がり、笑っていた。 今日は天気が悪く朝から曇っていて、昼には小雨が降っていた。 今は止んでいるが地面は湿っていて、土が靴の裏に張り付く。 商店街の中はコンクリートなのでそういう心配は要らない。 「まだ雨は降るんやないかなぁ。」 誠二がそういった。 確かに雨の中、ギターを背負っていくと濡れてしまい、そってしまう恐れがある。 「だから今日は親父のギターを借りよう。そうしたらギターそのものが濡れる心配もないだろ。」 バーには誠二の父親が趣味で集めたギターが何本か立てかけてある。 それを使うと言う事なのだろう。 「でも、ピックは持って来いよ。」 「あぁ。それは持ってくるよ。」 一度、練習時にピックを忘れ、誠二の物を借りたことがあった。 しかし指に合わず、何度もミスをした。 自分に合ったピックでないと良い演奏は出来上がらない。 僕は黒の地に金で文字の入ったピックを手の中で回していた。 誠二も隣で白の地に青い文字の入ったピックを回している。 雨が降ったせいか、灰色の空には雲が多く星一つ見えない。 冬は日が沈むのが早く、今は午後六時だが外は暗い。 商店街を抜け、細い道へと入り、大きな通りに出て、横断歩道を渡り、そこを右に曲がる。 店への道は、僕の脳内にインプットされている。 僕等は商店街を抜けた。 「うわ、また雨降り出してるよ。」 誠二が嫌そうに呟く。 街灯の明かりを見ると雨がその明かりによって照らされ、大雨だと言う事がわかる。 「どうする?」 僕等は傘一本持っていなかった。 「雨が当たる場所は走ればしのげるさ。」 僕はそう言った。 雨が当たるのは、今から通る細い道と横断歩道だけだ。 僕等はピックをポケットに入れると雨の中を走りだす。 地面に溜まった水が跳ねる。 細い道を走りぬけ、大通りで息を抜く。 まだ信号は赤で車が僕らの目の前を走り去る。 手で顔を拭った。 「寒……」 濡れた服を絞ると水が出てきた。 「親父に叱られるー。」 誠二が間延びした声を出す。 「傘ぐらい持ってくりゃあ良かった。学校には持っていったのに雨降らないしなぁ。」 「持っていったのか? こないだ傘、壊さなかったっけ?」 僕は聞いた。先月、雨が降った際に誠二が傘を開いたまま学校の玄関を出たため、玄関に傘が当たり傘骨が折れてしまっていた。 「壊したけど。」 誠二は軽い口調で言った。 前を見ると、歩行者用の信号は青に変わっていた。 雨が降り、車が滑りやすくなっているのだろう、車がスリップする音が聞こえる。 クラクションの音が交じり合う。 「渡ろうか。」 僕より少し先に誠二が走り出す。 誠二の跳ねた水が僕のズボンにかかり、僕は一歩後ろに下がった。 そのとき、車のスリップする音が近くなった。 一瞬にして眩しい光が視界を覆い、僕は目を細める。 それは前を走っていた誠二を飲み込んだ。 そして、ガラスの割れる音、激しく何かがぶつかる音、車の走る音、人の叫び声、雨の音・・・・・・ 僕は今起こった事態が上手く飲み込めず、その場に立ち尽くしていた。 人の肩が僕の肩に当たり我にかえった。 目の前には大きなトラックが知らない店に突っ込み、割れたガラスが一面に散らばっている。 そして、少し離れたところに彼は倒れていた。 僕は急いで誠二のもとへ走り、倒れた彼を抱き上げ名前を呼ぶ。 しかし、誠二は全く動かず、彼の口から血が流れた。 僕の足元にあった水溜りが赤く染まっている。 ……まさか。 僕は自分の服を見た。 べっとりと赤黒いものが付いていた。 「誠二!」 僕は怖くなった。 どこから出血しているのかわからないがすごい量だ。 僕の指にちくりと痛みが走る。 手を見るとガラスの破片が刺さっていた。 ガラスが彼の身体を切り裂いたのだろうか? 周りに散らばっているガラスの破片にも彼の血が付いている。 店に突っ込んだ大きなトラック。あれが彼の体を破壊した。 誠二の身体から流れる血は雨水と混じって流れてゆく。 遠くから救急車の音が聞こえてきた。 僕の力が一気に抜けていく。 僕はそれから何がどうなったのか、よく思い出せない。 [先頭ページを開く] [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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