物語

閉じられた本 1



止まってしまった映像。
それから何がどうなったか、わからない。
知りたくもなかった。
そうするうちに、今が来てしまった。
それはすぐそこに来てしまった。
・・・でも、これで良かったのかも知れない。


畑の並ぶ道を自転車で走る。気持ちの良い夏の風を全身で感じながら、私は家へとペダルをこいだ。風に背中を押されながら、右のペダルを踏みしめると、自転車は軽く前に進む。最近、テレビで流れていた歌謡曲を口ずさむ。その曲は、小さな恋の歌だ。しかし、私はまだ一度も恋なんて経験したことがない。こんな高校生、今時珍しいだろうな。すると、電車が私を追い越して行った。電車の中で、私と同じ高校生らしき男女な仲良さそうに、笑顔で話していた。
「リア充発見。」
 私はそう言うと、また自転車をこいだ。夏のセーラー服が風に吹かれてなびく。正直、私はその姿をカッコいいと思う。
機関銃があればなぁ。
 自分が機関銃を持っているところを想像した。そして、想像を膨らませる。
 家が見えてきた。和風の古い一軒家だ。私は小さい頃、両親を事故により失し、それから祖母と二人で生活している。二人で暮らすには広すぎると思った。
 ・・・兄弟がいれば良かったのに。
 私は毎日、そう思った。そして、もし私に兄弟がいたら、と想像する。背が高くて、優しい兄がいい。そして、私はその兄に初恋をしたい。私は、最近見た恋愛ドラマを思い出す。
 自転車に鍵をかけ、玄関の横に立てる。そして、ドアを開いた。
「ただいまー。」
「お帰り。」
 祖母の声が聞こえた。靴を脱ぎ棄て、自室へ向かう。ギシギシと、音を立てる廊下を歩く。部屋は、しばらく片付けていないから、あちらこちらに物が散乱していた。鞄をその中に投げた。
 片付けようか。
 私は足元に落ちているノートを拾って重ねた。しかし、私のやる気はそこまでしか続かなかった。
「うわー、めんどー。」
 私はまだ散乱しているノートの上に寝転がり、目を瞑った。
 気付いた時には、もう日が傾いていた。私はあのまま、寝てしまったらしい。私は立ち上がり、部屋を出て、祖母の所へ行った。
祖母は夕飯の支度をしていた。すると、菜箸を持った祖母が、私を呼んだ。
「そこの本棚から青い背表紙の料理の本を取って。」
 私は、その本棚をあさった。この本棚に私のものは置いていないから、今まで興味が無く、何が立っているのか知らなかった。青い背表紙の本を探し、祖母に渡す。私は、その本棚の中から、色あせた花の絵柄のアルバムを取りだした。祖母の若いころの写真でも入っているだろうか。私はそのアルバムを開いた。
 しかし、そのアルバムには、ほぼ全て、と言っていいほど私の写真が収納されていた。最初の写真は、私が庭の水道で遊んでいるところだった。背景は、大きな入道雲が映っている。多分、五歳くらいの夏だろう。
 次の写真は、私が縁側で寝ているところを映したものだった。写真の私は、赤いワンピースを着ていた。このワンピースは、私のお気に入りだったことを覚えている。
 次の写真は、かなり古いものだった。母が庭で笑って立っている。母がどんな人だったのか、私は覚えていない。写真に写っている母は、髪が長く、綺麗な女性だ。私には、あまり似ていない。
 ページを捲った時、一枚の写真がアルバムから落ちた。その写真には、まだ生まれて間もない私を、母が抱き、右隣に背の高い父が立っていて、左に幼稚園くらいの男の子が母の服を握り、立っていたのだ。私はその男の子に注目した。
「お婆ちゃん、この子誰?」
 祖母にその写真を見せた。祖母は逆に聞き返した。
「言ってなかったかい?」 
 私は大きくうなずいた。祖母はエプロンで、濡れた手を拭きながら言った。




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