金色のコルダ3
100回目のキスと、愛の囁き(東金)
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<100回目のキスと、愛の囁き>

抱え持つ花束は霞草も入れず真紅の薔薇のみ30本束ねたもので、根元の金色のリボンが華やかな彩りを添えていた。

やっぱり50本にするべきだったか‥‥。
いや、それだと小柄なかなでが抱えると花束に押されてしまうに違いないから、やっぱりこのくらいで丁度いいだろう。
我ながら良い判断だ。

楽屋裏に繋がる通路を塞ぐ「関係者以外立入禁止」の立札の脇にいたボランティアの高校生が軽く俺に会釈した。

芹沢が準備したバックステージパスを見せるまでも無く、顔パスですんなり通ることができた。

最も学生主体の音楽コンクールの、それも地方予選なのだから元々パスやら身元確認など形だけのようなところはあるが。

昨日行われたファイナルとは違って今日は入賞者のガラなので、張り詰めた緊張感は薄れどこかお祭り騒ぎのように浮ついている。

入口にヴァイオリン部門の張り紙がしてある扉をノックすると、控えめに「どうぞ」と聞き覚えのある声が入室を許す。

扉を開いて中を覗き込めば、かなでのちいさな顔が目に見えて明るくなっていく。

「千秋先輩!」

ぱたぱた走ってくるかなでの柔らかな桜色のスカートが優しく揺れる。

「どうしたんですか?来られないって言ってたのに」

昨日と今日の二日間のために三ヶ月も前からスケジュールを空けておいた。
直前になってどうしても外せない急用ができてしまい、昨日のファイナルも生では見られない羽目になり――。

何事もそつなくこなす芹沢のおかげで、昨日の深夜にファイナルの録画は見ることができたのだが。

「すまなかったな。わざわざ俺のために関西予選の大会にしてくれたのに」

横浜在住のかなでにとっては、どう考えても東京予選の方が便が良い。

俺が神戸にいるからこそ、敢えて神戸会場を選びエントリーしてくれたというのに。

「ちょっと残念でしたけど、昨日の演奏は私には満足の出来でした」

かなでがにこにこと悪気も裏も無い笑顔を見せる。

「俺などいなくても、どうってこと無いってことだな?」

「違いますよ。観客席にもいない遠くにいる先輩に贈るつもりで弾いたから、却って音が広がった気がするんです」

それはつまり、いない方がやっぱり上手くいったという事で間違いないとも思うが。

「きれいな花束ですね」

「ああ、お前に」

「私にですか?有難うございます」

両手を伸ばしたかなでに花束を渡した直後に、身を乗り出してキスする。

「‥‥あ」

花束を受け取ったままの姿勢で、かなでは何故だか立ち尽くしていた。

勿論ファーストキスでもないのだが、あまりに茫然としたままのかなでに視線で問い掛ける。

「‥‥今の、100回目のキスだったんですよ」

恨みが籠もった上目遣いで軽く睨む視線に、逆に驚かされた俺は思わず吹き出す。

「ちょっと待て、100回どころじゃないだろう。どういう数え方でそうなるんだ」

勿論、俺はキスの回数など数えているわけでもないが、どう考えたって100回どころではないはずで。

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