ゆ様、刃様企画
奥村誕
に出させて頂いた青エク雪燐小説です。



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冬の冷たく、時に痛みまでもを与える風が強く頬に当たる。ぶ厚いコートの下に何枚もの服を重ね、マフラーを巻き、手袋をはめ、できるかぎりの寒さ対策をしたが、この風の前では完全に無意味なことと化す。そもそもどれほど体が布に覆われていおうと、顔をむきだしにしていれば寒さを感じないはずがないのだ。
雪男は顎を引き、少しでもと顔をマフラーに埋めた。そしてちらりと公園の時計を見る。15分前に日付が変わったことを表示するそれに思わずため息をついた。
つまり昨日が12月26日で今日は12月27日ということだ。12月27日。僕と兄さんの誕生日。
思えば昔は26日の夜から日付が変わる瞬間をひたすら待ち続け、夜更かしするなとよく神父さんに怒られたものだった。しぶしぶ布団に入るものの、すぐに眠りについてしまい気がつけば朝になっていた。
中学になった頃にようやくその瞬間に出会えた。かなり感動したのを覚えている。それから毎年二人でその瞬間を祝っていたのだが…。
もう一度、深いため息をつく。このまま歩けば寮につくのは1時頃になるだろう。燐が1時まで起きていられるとは思えない。そもそも自分にとって今日というイベントは特別なものだが、燐にとってそうなのかは定かではない。燐も高校生になったのだ。もう誕生日がどうだとか言う歳ではないだろう。
そのことにチクリと胸が痛む。野良犬がゴミをあさっているのが目に入った。その犬の愛くるしい顔とシチューだかカレーだか分からない汚い残飯とがアンバランスだった。立ち止まりふと空を見上げるとオリオン座がくっきりと見えた。この世界の汚い物と綺麗な物とが同時に存在する、変な感覚に襲われた。何となくゾッとし、再び足を前に進める。
しかしすぐにその足を止めた。
まさかという驚きとほのかな期待をもってゆっくりと振り返り、暗闇へと声を投げる。


「……兄さん?」


闇が笑う。


「なんだバレてたのかよ」


つい先日役割を終えたはずのクリスマスケーキの看板から、ヒョコッと燐が顔を出した。そしてポケットから出した小さいカイロを雪男の顔に当てる。


「……っ、バカ、熱い」
「なんだよ、鼻真っ赤にしてるくせに」


燐は唇を尖らせ拗ねた顔をしたがすぐにニコリと笑う。ちらり八重歯が顔を出す。雪男もくすりと笑い。そして燐の解けかけているマフラーを結びなおす。どこからか話声が聞こえてきた。


「兄さんが迎えに来てくれるなんて珍しいね」
「まぁな」
「もしかして一人で寂しかった?」
「……うるせー」


ふと燐の頬を見れば少し赤らんでいた。雪男は熱そう、と呟き冷えきった手の平を頬に当てる。


「うわっ!!」
「あぁ、ごめん。びっくりした?」
「当たり前だろ!! お前の手冷たすぎ」


この寒さにしては暖かい手で燐は雪男の手を包む。今度は雪男の頬がカッと赤くなった。


「お前のほっぺも熱そうじゃねえか。よっ」


近くのベンチの上に積もっていた雪を雪男の頬へと当てる。雪男はもはや叫ぶこともできず、目をギュッとつむった。
燐が雪男のめったに見られない可愛い反応に目を細める。


「……雪男、そのまま」


燐はそう言うとちょこっと爪先を上げ、雪男の唇に自分の唇を軽く押し当てた。チュッという可愛らしい音がなる。
呆然とする雪男は少ししてキスされたと気付き、更に顔を真っ赤にして叫んだ。


「に、兄さん!! ここ外だよ!! だ、誰かに見られたら…っ」
「ん? 恋人とイチャイチャしてましたって言えばいいだろ」
「……っ」


あまりにもあっけらかんと言う燐に雪男が顔を赤くしたまま俯く。がすぐに吹っ切れたように顔を上げ、燐の頬へと手を当てた。その表情はいつもの余裕を含んだものへと変わっていた。


「そうだね。僕ら恋人だもんね」
「だろ? 雪男……早くチューして」
「なにそれ誘ってるの?」


口元に笑みを含ませながら雪男は燐へと顔を近付ける。唇が触れる直前、二人の唇が同じ形に動いた。



「「…ハッピーバースデー」」





END

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